YUKIの読書日記

30代半ばになって「読書感想文」を書くことの大事さを知った。どうせならブログに残しておこうと思った。

メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界

メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界 https://www.amazon.co.jp/dp/B09V4Y8WJG?ref_=cm_sw_r_apin_dp_5SJG2F3MR4JTTBD14Q4W

 

【はじめに】「この本は色々誤解されているのでは無いか」という事について触れます。

この本を読む前まで私はこの本の事を
『バーチャル美少女ねむがメタバース空間などでのアイドル活動を通してメタバースの今と未来を語る本』みたいなものだと誤解しておりました。

つまり
『アイドル目線でみたメタバース』や『バーチャル美少女ねむのファンに向けたファンブック』的な本なのだと誤解していたのです。

この本は
『「バーチャル美少女ねむ」というアイドルの皮を被った「メタバース専門家」が書いた本』である。
つまり専門性の高い本であるという事です。

(※「アイドルの皮を被った〜」は言葉の印象が悪いのですが、この本を未読の方に伝えようとすると、どうしてもこの様な例えしか思い浮かばず…

この本を最後まで読んだ人にわかる言葉で説明すると
「バーチャル美少女ねむ」という分人と、
メタバース専門家ねむ」という分人が共同執筆した本である。と言えるかもしれません)

『美少女』という単語でこの本を誤解している人が少なからず居ると思いますので、まず初めにこの事を書いておきます。

【この本について】

本書では
メタバースのいま」
メタバースが人類、人類社会にもたらす3つの革命」
メタバースのみらい」についての事が書かれています。

メタバースのいま】
メタバースとは何か」について、
この本に興味がある方は、ある程度「メタバース」の事を知っていると思いますのでここで説明は省きます。

本書の作者「ねむ」さんとスイスの人類学者「ミラ」さんは2021年「ソーシャルVR国勢調査」という全世界のソーシャルVRユーザーを対象にアンケート調査を実施し、
そのアンケートのデータをもとに現在の「メタバースの今」を解析、解説をしています。

ソーシャルVRとは『VRゴーグルを被って仮想世界でコミュニケーションできる』サービスの事で、現在主に4つのサービスがあります。

アメリカ、チェコ、日本では2社がサービスの運営しています。
「コミュニケーションに向いたもの」や「創作活動に向いたもの」「イベント開催に向いたもの」
等々、多様な特徴が各サービスにはあります。

また「Meta」と社名を改めた旧facebook社も「Horizon World」というソーシャルVRを総力を上げて開発しているそうです。

このソーシャルVRは本書冒頭で
"「(期待していたものは)これじゃない!」とソーシャルVRの住人の中でブーイングの嵐が起きた"
だとか

"Horizon Worldでは「なりたい自分になれない」
ディズニーアニメ的なアバターしか選択できない。
アバターの姿は仮想空間である私自身の姿でありそれは「アイデンティティ」とも言える。
それを自分の自由に選択できない。しかもそれをMeta社の都合で勝手に変更した事例もある。
これは重要な懸念事項だ"
とか

私個人的には
"Meta社が販売しているVRゴーグル「Meta Quest2」は売れば売るほど赤字になる「逆ざや」の状態らしい。これは、
SONYが『セルコンピューティング構想』に社運をかけPS3を逆ザヤ状態で売り続けた結果、債務超過に陥った」ことを少し彷彿とさせる。
facebookの人気が翳りを見せ、「NextSNS」とも考えられる「メタバース」 に社運を賭けるのは良いが、どこまでやるのか心配だ"
など、
正直良い印象はあまり持てませんでした。

「現在私たちがさまざまなSNSを使い分けているように、今後さまざまなメタバースを使い分けることは当たり前のことになっていくでしょう」と筆者が書いていたのが印象に残りました。


メタバースを支える色々な技術を紹介する章も登場します。

"VRゴーグルは左右の目に異なる映像を表示して、視差によって立体的な映像を見る事ができる"

「仮想空間と言ってもアバターから見える景色は二次元的なものだろう」
この本を読むまでこんな勘違いをしていました。私はこういう仕組みを知らなかったので驚きました。

メタバースが人類、人類社会にもたらす3つの革命】
アイデンティティ」「コミュニケーション」「経済」について述べられています。

アイデンティティ
私が「なるほど」と思わず唸ったのは、日本の小説家平野啓一郎氏が提唱した「分人主義」。そしてプラトンの「イデア論」。
これらの考え方をメタバースに持ち込むと、
人間は現実世界では決して到達できなかった考え方ができる。
また個人が様々な分人(別人格ではなく個人が持つ様々な『ペルソナ』のようなもの)同士のコミュニケーションが可能になるなど、

ここで説明すると非常に長くなってしまうので本書を読んで欲しいと思います。

「コミュニケーション」
「コミュニケーション」や「スキンシップ」「恋愛」などのあり方がメタバースで変化する。
それによって社会も新しいかたちに変化していく。

一言でいうとこんな感じですが、そんな単純な話ではありませんので、ここも是非本書を読んで欲しいです。
「コミュニケーションのフィルタが創造性を加速する」のコラムなどは必見だと思います。

「経済」
"マーク・ザッカーバーグ氏は2021年10月28日
「当社の目標は、次の10年間で、メタバースが10億人に利用され、数千億ドルの取引が行われるようにすることだ」とMeta社の目標を掲げた"

メタバースでお金儲けをしたい」と思って本書でメタバースの勉強をする方ももしかすると居るかもしれませんね。

そのヒントになる部分も本章には沢山あったように思いました。

逆に筆者のとある「フレーズ」を聞いて現実世界の商売のあり方も考えるきっかけに至りました。

それと
"利用実態のない仮想空間の土地を「これからはメタバースの時代。早く買わないと高騰して買えなくなってしまう」という論調で売っているケースも見受けられる"
全て詐欺であると言い切れないものの、売買を行う際は注意して欲しいと。

この事は「経済」の章で取り上げられた話では無いですが、こういう取引には注意したいですね。

メタバースのみらい】
現在のソーシャルVRでは主に「視覚聴覚のみ」を仮想空間を接続しており、今後「触覚スーツ」などで「触覚」を、
脳に手術を行なったり脳波などを測定することによって「五感すべて」を全てを仮想空間と接続する「フルダイブVR」という技術も注目されているそうです。
※勿論「脳の手術」などは倫理的な問題。他にも色々な課題があり難しいとのこと。

また「ファントムセンス」と呼ばれる感覚
例えば
「現在使っている機材ではソーシャルVRアバター同士が手を触れ合っても触れ合った感覚を感じるのは不可能だ。
なのに不思議な事に手を触れ合った感覚を確かに感じる」
みたいな事例、感覚の事だと説明されています。
「触覚」だけで無く「嗅覚」「味覚」を感じてしまう方もいらっしゃるようです。

テクノロジーの発達を待たず、人類がメタバースに順応する方が早かったりするかもしれませんね。

【さいごに】
冒頭私は
"バーチャル美少女ねむはアイドルの皮を被ったメタバース専門家だ"
と書きました。

そしてバーチャル美少女ねむさんは本書で
"技術評論家や投資コンサルタントには、絶対書けない、実際にメタバースに生きる原住民ならではのリアリティ溢れる内容を、データの裏付けと共にお届けします"
と書いています。

この本を読み終わってみて
「アイドル」「技術評論家」「メタバース専門家」などそういう枠組みの中に囚われないのが「バーチャル美少女ねむ」さんなのかな。
と考えました。

おわり

Web3とメタバースは人間を自由にするか

Web3とメタバースは人間を自由にするか https://www.amazon.co.jp/dp/B0BMPQ9CTP?ref_=cm_sw_r_apin_dp_F6Z7TQ8QJ2VHXBXXSB6K

この本は、佐々木俊尚さんが考える
「今注目されている技術を使ってこんな未来になれば素敵だよね」を紹介した本です。

「そんな未来になれば確かに素敵だね」と私は共感したし、共感しない人は非常に少ないのでは無いかと思います。
「素敵な未来」とはざっくり説明すると「人と人とが今まで以上に繋がり合う未来」です。

ここまで見ると「この人、頭の中お花畑かなw」と嘲笑われるかも知れませんが、この240ページ近くの本を読み終わった後には「お花畑とか言ってごめんなさい」となるはずです。

 

本書の1番のテーマは「関係と承認」だと私は思います。

1.「トークンエコノミー」。
Web3.0に必要とされる「ブロックチェーン技術」を利用した暗号資産のようなものです。

単純にこの技術を利用しただけでは「ただのマネーゲームになっちゃうからダメだ」という事で
「佐々木流」のアレンジが本書で提案されています。

売買することによる金銭的な価値得られる役割を果たす
「金銭的な価値」に加え
「サービスとの交換の価値」
「株式的な価値」
を付与するというものです。

「株式的な価値」には「クラウドファウンディング」に近く「魅力的な商品を作る人」「個人的に注目しているインディーズバンド」など、応援した人達のトークンを買う。もしくは買ってもらう、ということ。

例えば

『「あの頃応援していたインディーズバンドが今では紅白常連の顔になったな」

あの日あの時、とあるインディーズバンドの演奏に心を釘付けにされた。
お布施と応援の気持ちをこめて当時販売されていた「応援! 1000トークン」を購入した。
それが今では「1000トークン」が「50000トークン」ときたもんだ。凄いなあいつら50倍だぞ。

1000円で買ったものが今では50000円。

儲けはデカい、が。
しかし…あの日あの時購入した唯一無二の「トークン」を見ながら
「私はインディーズ時代から応援している古参だぞ。儲けはでてもニワカにこれは金を積まれても渡さん」などと優越感に悦に浸るのもやめられないんだよなぁ』
みたいな事が本書で書かれています。

作品紹介でもあった「推し活」がこれで、「関係と承認」に必要な技術の1つです。

2「メタバース
こちらも「関係と承認」に必要な技術の1つ。
メタバースとは何か」この説明はここでは省きます。

私が特に重要だと思ったのが「アバター同士の目線と目線が合わさる」
というこれはzoomやMMORPGにはないメタバースにしか無いものです。

「目線が合わさる」ということは「私は見られているる」ということ。承認欲が強い人弱い人 様々いると思いますが「承認欲が無い」人は中々居ないと思います。

「見られている」ことは実は非常に大事なことらしく
「1997年 神戸児童連続殺傷事件」を例に説明されています。

3.「ユニバーサル・ベーシックキャピタル」という経済の仕組み

これは「ベーシックインカム」をパワーアップしたような仕組みです。

『2008年のリーマンショックの時、倒産しかけていた金融機関に7千万ドルの公的資金を投入した。
公的資金は元を正せば国民が納めた税金だ。リーマンショックがひと段落して再び金融機関が儲けを出しても国民には一切リターンが無い』

また、
『GAFAMなど巨大な会社はAIなどの技術で儲けを出している。その技術が磨かれたのは大学などの機関での基礎研究に税金を投入したからだ。
国民のお金でAIなどの技術が進歩したのに国民への金銭的なリターンはあまり無い。(リターンを得た人と言ったらGAFAMの株で利益を得た人ぐらいだろう)』

簡単にいうと
「税金で救済を受けた企業、税金で成長した企業は法人税などを多く払い、多く払った分を国民に還元するべき」
という仕組みが「ユニバーサル・ベーシックキャピタル」です。語弊はありますが大体こんな感じの仕組みです。

「AIに仕事を奪われて大変だ」「しかしベーシックインカムを導入するには多大なコストがかかる」と昨今騒がれていますが、
この制度があれば「全国民が住んで食べていける位のお金」はベーシックインカムで賄えるのかもしれないですね。

必死に仕事をする必要が減るので余暇時間が増えます。
「人と人とが(仮想空間などでも)触れ合う時間」も増えますね。

4.最後に

以上が本書のテーマだと思った「関係と承認」に特に重要だと感じた技術や仕組みです。

他には
「自動運転技術が完璧に広がると渋滞は無くなる」とか
「この世界とメタバース世界が相互作用する為に必要な技術」とか、
メタバースの行き着く先は『映画マトリックス』のマトリックス空間のような現実と区別のつかない仮想空間になるだろう」とか
色々な技術が私達の暮らしをどのように変えていくのか。読んでいるとワクワクが止まらくなります。


「未来は巨大企業やAIに支配された暗いものだ」と思っている人は少なくないと思います。

この本を読み終わった後
「未来は思っていたよりも明るいものになるかもしれない」と少し救われた気持ちになる。

そんな本と出会いました。

追記)
例えばAIについては
文藝春秋 私たちはAIを信頼できるか」などのAIの本を読む方がAIについての理解がより深まりますし、
メタバースに関しては本書で紹介されている
技術評論社 メタバース進化論」などを読んだ方がより理解が深まると思います。

本書は「注目されている技術をわかりやすく説明した入門書的な役割」の本だと思います。